晴れ(Hare)が紡ぎ出す絵と物語 宇宙の生命、それらが憧れる地球の女神 魅惑の世界が広がる

つがい(A brace)

つがい


acrylic,
canvas 46×53×0.3cm(F10)
2018年
¥66,000(消費税込) JPY


《物語(Story)》

【つがい(A brace)】

広い草原。
晴れた空が心地よく、時おり涼しいそよ風が草原の表面を撫でて波が流れる。
草原ではあるが地面は湿っていて、草が覆っている湿地である。
所々に綺麗な池が点在している。
近くには高い樹々が聳える林が見え、その樹々を見上げると、蒼い空の広がりが更に高く感じられる。
久しぶりにこんな場所に来た。今が仕事だということを忘れさせる。

林の樹々が何かに擦れて揺れる音がした。
そして樹々よりも高い者が右の方から現れた。
少し前から右の方から歩いて来ていた筈であるが、私達は気づかなかった。資料にはこの動物がこんなに静かに動くとは書かれていなかった。
巨体にも関わらず、その動物は振動も音も無く歩いてきた。まるで巨木の丸太がスライドするかの様だ。
素晴らしく優雅な動きである。

「何だか綺麗だな」
「ああ、美しいね」
「優雅だ」
私達は、この星に住むこの動物の生態調査にやって来た。この動物については文献や映像で事前に調べてきたが、実物は初めて見る。
宇宙船はここからは離れた場所に待機している。
私と二人のクルーがフロートビークルに乗り、この動物か通るだろうと予測した地点で待っていた。
万が一、襲われた時はビークルを防御壁で包み込む為に、フィールドジェネレータも持ってきている。
ただ観察するだけなら上空からの観察で良いのだが、彼らの個体毎の把握を行うのも目的である。
彼らの個体毎の把握は、人間などと同じで、指紋で行うのである。彼らの4本の脚の指には指紋がある。そして前脚の親指は地面には触れておらず、近くであれば指紋を撮影出来るのだ。
その為に私達は、地面で待っていたのだ。

「もう少し近づかないと、指紋が見えないな」
「そうだね」
「じゃあ、近づける」とビークル操縦を任せていたヒューマノイドの仲間が、ブレーキを外してアクセルを踏もうとした。
その時、私達の直ぐ上を何か大きな物が凄いスピードで移動した。
私達3人は思わず上を見、何も無いと知り、直ぐにビークルの左側を見た。

そこには、巨大な脚があった。そしてそれは次の動作に向かい動いている。
そうだ、もう一頭が近くにいたのだ。
彼らは余りにも静かな動きで歩く為、私達はもう一頭が近づいてくるのを気づかなかった。

先を歩いていた最初の一頭が、頭をこちらの方に向けている。そして何か声を短く発した。
こちらのもう一頭が返事をする様に声を出す。

その時、後脚がやって来た。皆、身を屈める。
でも、後脚は上手く私達を避ける様にスムーズに私達の上を通っていく。
この動物は私達を把握している。そして避けてくれた。

彼らはこの星の生物であるが、この星で進化したものではない。
彼らは遺伝子操作で生み出された。
この星に元々住んでいた動物と、ヒューマノイドの遺伝子を組み合わせて生み出された。
彼らに人間の様な指紋があるのも、4本の脚が人間に似ているのも、そして彼らの顔がどことなく人間に似ているのも、それが理由である。
最初はヒューマノイドと同じ知性が備わっていた。
しかし、それは徐々に失われていった。
今でも人間性が残っていると言われているが、それがどの程度なのかを調査することが、私達の最終的な目的なのだ。
私の母星がその結果を知り、何をしようと考えているかは詳しくは知らされていない。
だが、予想以上の知性がまだ在ると判明したときは、この彼らにとっては、今よりも住み難い状況になるのは明らかである。
悲しいことだ。

2頭は音もなく歩きながら、木々が刷れる音だけを発しながら、私達から離れていく。
そして彼らは歩きながら、寄り添う様に近づいた。
「ああ、あの2頭はつがいだね」
「そうみたいだな」そう言いながら、彼はビークルのアクセルを踏み、つがいを追いかけた。
「よし、僕が指紋を撮影するよ、上手い操縦を頼むね」と猫型種族が銃型カメラを構える。
「おう、任せな」とヒューマノイド。

私達を避けてくれた一頭の足跡が池となって点々と並んで続いている。
音もなく加速するビークルは、音もなく歩き進むつがいの巨体を追いかける。
ビークルの風切り音と、つがいが揺らす樹々の擦れる音だけが響いていた。

Title つがい(A brace)

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