ーHare's worldー 晴れ(Hare)が紡ぎ出す絵と物語 宇宙の生命、それらが憧れる地球の女神 魅惑の世界が広がる Arts and stories spun by Hare. Lifeform in the universe, the goddess of the earth that they yearn for, the fascinating world spreads

《大いなる種族(大天使)カタログ(The Gigantic Tribe(ARCHANGEL) CATALOGUE)》
⑱紅塔(Crimson Tower)

大いなる種族(大天使)カタログ ⑱紅塔(Crimson Tower)

mechanical pencil(シャープペンシル),
acrylic,
illustration board 14×7×0.2cm
(Total catalogue(Page 2):illustration board 30×42×0.2cm(A3))
2020年


《大いなる種族(大天使)カタログ(The Gigantic Tribe(ARCHANGEL) CATALOGUE)》

⑱紅塔(Crimson Tower)
:The ALLURING GLOW that The BLACK THINGS Clinging together(黒いモノ達が纏わりつく魅惑の輝き)
※指の塔(Finger Tower)
・クローン(Clone) 180m


[◯“Height[m]” の色について
(About ◯“Height[m]” color)]
・“縮小投影クローン”比率
(“Reduced projected clone” percentage)
・色の違い(Difference in color)
緑(Green) :オリジナル(Original)
橙(Orange):クローン(Clone)
青(Blue) :ムーに由来(Derived from Mu)


[カタログ全体へのリンク]
《大いなる種族(大天使)カタログ(The Gigantic Tribe(ARCHANGEL) CATALOGUE)》Page 1

《大いなる種族(大天使)カタログ(The Gigantic Tribe(ARCHANGEL) CATALOGUE)》Page 2


《このカタログに関連したアートワーク(Artwork related to this catalogue)》
※リンク(Link)
紅塔(Crimson Tower)


《物語(Story)》

【紅塔(Crimson Tower)】

以前ここを訪れた時、塔を初めて眼にした。
再びここを訪れ、塔を目の当たりにする。
日が暮れて夜の闇の中で暫くそれは煌々と輝いていた。
そして今も輝いているがその光は僅かにしか見えない。
紅く光る塔に群がり纏わりつく黒いモノ達。
目の当たりにし身震いした。
それらは蠢いている。

一度見たら忘れられない輝き。
これを知る者は少ない。
ある晩、酒場で光のことで騒いでいる酔っ払いがマスターに絡んでいた。
その若者は、北の草原で光る塔を見たと言い張っていたが、夢でも見たのだろうと相手にされていなかった。
しかし私は興味津々で聴き入っていた。
私も見たことがあるからだ。
ただ異なる点があった。
光ってはいるが根元の方が黒いというのだ。
何故なのか。
私が見たのは全体が紅く光っていたのだ。
それ以来それが気になって仕方が無くなってしまった。

そして今、塔はまた目の前にある。
私は再び浮遊船を駈って、ここに来た。
紅い筈の塔にやってきた。
しかし黒いのは根元だけではなかった。
全体が黒い。
辛うじて所々紅く光が漏れている。
何なのかこの黒いモノは・・やはり動いている様だ。
背負い箱から遠見鏡を取り出し塔を覗くが・・思わず目を背けた。
想わぬ光景だった。
人であった。
無数の黒い人がびっしりと塔を覆っているのだ。
根元の方へ移すと幾重にも黒い人が重なっている。
何なのだこれは。

上方へ戻し更に拡大する。
黒い人は皆、抱きつく様に一様に同じ格好で塔にへばり付いている・・へばり付く・・そうだ、その言葉通り塔の壁面に引っ付いているのだ。
塔に押し付けた横顔は恍惚の表情であるかの様だ。
眉は無く頭髪も無い。
全身の体毛が全く無い様だ。
体の色は艶の無い黒。
紅い光を全く反射しない程、艶が全く無い。
光が黒く遮られているのはこの為だ。

一体こいつらは何をしているのだ。
いや塔は何の為にここにあるのか。
塔の高さは200mはある。
永遠とも思える蒼緑の海原に聳え立つ紅く光る塔。
外壁は丸く、まるで指が一本上を向いている様である。
そうだ、これは指なのではないか。
中腹に2ヶ所微かに括れがある気がする。
そしてそれは半面にしか無い。
指・・まさか200mの指。
だがそう思えば思う程に指に見えてくる。

私はもう少し近づいてみることにした。
頂上を仰ぎ見る様になるまで近づいてみた。
黒い人が遠見鏡無しに見える。
根元で幾重にもなっている人は身動き一つしていない。
塔の幅は50m程あろうか、その根元一面に動かず朽ち果てているモノが幾重にも重なっている。
恍惚の表情を浮かべ塔を覆う無数のモノと朽ち果てた無数の死骸。
恍惚のモノでは判らなかった死骸の腹側を眺めるとほんのり紅色をし吸盤の様なものがある。
胸・腹から腿・臑にかけ、又、肩・腕にもびっしりと隙間無く付いている。
塔に張り付く為に生まれるモノ・・生まれる、どこから。
この草原からか。
確かに草原には解らないことが多い。
年中緑のままの葉だが、霧の期のみ黒く見える程、濃くなる緑。
黒い海の様だという。
又、この海原の中に湖があるとも云われている・・本当の水の湖であるが、表面には草が生い茂り区別出来ないという。
ここ、塔のあるこの場所も普通、人は来ない所だ。
あの夜、私は偶然ここに辿り着いた。
浮遊船の位置特定機が故障し、一昼夜さ迷い続けた末のことだった。
闇の中に突如として現れた光は寝ずの疲れを忘れ去らせる程のものだった。
200mもあるものに、近づくまで何故気付かなかったのか、それは塔の周囲を同様に200mの壁の様なものが囲んでいる為だ。
様なものとは実体が無いからである。
何も無いかの様に通れるのだ。
しかし外からは壁の中の塔は見えない。
塔だけが見えず、ただ海原が続いている。
塔を隠す様に。

私はもっと近づいてみることにした。
ゆっくりと浮遊船の推進舵を傾けた。
死骸の山が徐々に迫って来る。
近づきながら唖然とする。
何という量だ・・黒い丘・・頂上まで30mはある。
丘の裾野まで10m程で船を止めた。
黒い丘から黒い塔が頭上高く聳え立っている。
そういえば、壁に遮られている為だろうか先程から風が全く吹いていない。
不気味な程だ。
真っ青だった空は、陽が傾き始めるに伴い紫色を帯びて来ている。
暗くなる前に帰途に着くべきだろうか。
しかし目の前のものから離れる気になれない。
塔のモノ達を見上げるとびっしりへばり付くさまに身震いする。
凄い、見上げる眼前全てが黒いモノだ。
一瞬自分の今の状況が判らなくなった。
頭の一部が夢の中のことと信じたくなる。
空は更に深みを増し、遥か海原の地平線に夕陽がかかろうとしている。
黒いモノ達の隙間から漏れる紅い光が目立つ様になって来た。
やはりこの光、木漏れ日ならぬモノ漏れ日で心が盗られそうになる。
見とれている間に陽はほとんど沈み地平線のみが赤紫に染まっている。
風も吹かず自分の呼吸の音以外何も聞こえない。
只赤い光が点々と夜空を彩るのみ。
微かにざわつく様なかさつく様な、音なのか振動なのか、気のせいだろうか。
いや、紅い光の模様が僅かに動いている気がする。
音が徐々に大きくざわめきとなり、赤い光は明らかに動き出した。
何だ。
夜行性なのか。
塔の天辺の光が剥き出しになり紅い光を放つ灯台の様になった。
その紅い光はだんだん下へ広がっていく。
ああ、この光だ。
恍惚の表情が顔を覆っているのが自分でも判る・・黒いモノ達と同じ様に。
見とれていて良いのか。
頭では理解しているが体が眼が離れ様としない。
奴らは降りて来ている・・こちらに向かって。
徐々に恐怖が湧き上がり、恍惚に勝り始めた。
やっと私は見上げた眼を下へ戻し、船を後戻りさせ様と方向舵に手を掛けた。
その時、私は見た、いや既に気付いていた光景を現実であったと確信した。
黒いモノ達が私に向かって迫っている・・3万を超えるモノ達が。

話を聴いていた若者が遮った。
でもあんたはここにいる、何故。
私は最後まで聴きなという様に若者の顔の前に手の平を向けた。

黒いモノ達は死骸の上を埋め尽くしながらこちらに向かって来た。
私は浮遊船を下げ様と必死に舵を叩きつける様に動かした。
しかしモノ達の動きは思いの他速く、私と浮遊船は飲み込まれるしかなかった。

だが何も起きなかった。
いや浮遊船と私には何も起きなかった。
黒いモノ達は飛沫を上げながら草原の中に入っていった。

翌朝、壁の外にいた私はもう一度塔を見たい衝動に駆られていた。
何故って、黒いモノ達は全て残らず湖に入っていった後、陽が昇ってもとうとう戻って来なかった。
私は紅く輝く塔を眺めながら浮遊船を後退させた。
壁を通り抜けた途端、風が吹き込んで来た。
眼の前にはもう何も無い。
その後、私は陽が頭上近くに来るまで、その場から動くことが出来なかった。
この向こうにあの光があるのだ。
昼間でもいい、もう一度あの光が見たい。
そして、もう一度壁を抜けることを決めた。
ゆっくりと舵に手を載せ浮遊船を前進させた。
壁があるだろう辺りに差し掛かると舳先が揺らいだ。
更に進むと目の前の景色が揺らぎ、一瞬にして塔が現れた。
しかし、その塔は黒かった。


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