acrylic,
canvas 46×53×0.3cm(F10)
2024年
《このアートワークに関連したアートワーク(Artwork related to this artwork)》
※リンク(Link)
→夜明けの儀式ー昇り鳥に乗って朝陽を浴びるー(The first light ritualーRide a rising bird and bask in the morning sunー)
→夜明けの儀式ー旭光に包まれてー(The first light ritualーEnveloped in the rays of the rising sunー)
《このアートワークに関連した構造説明図(Structural drawing related to this artwork)》
※リンク(Link)
→グレートホーンー或る世界の巨大な生物ー(Great HornーGiant creature in a certain worldー)
《物語(Story)》
【夜明けの儀式ーグレートホーンー(The first light ritualーGreat Hornー)】
もうすぐ夜明けだ。
水平線の彼方を見つめながら自分の未来に想いを馳せる。
僕は今日、生まれ育ったこの村を出る。
少し寂しさもあるが、“夜明けの儀式”が待ちきれないでいる。
今日は僕の誕生日。僕は今日で成人になったのだ。
この村では、成人になった誕生日の朝、夜明けの儀式を行うのが大昔からの習わしだ。
この村の象徴である“グレートホーン”に登るのだ。
グレートホーンに登ることが出来るのは成人を迎えた者だけであり、それも成人を迎えた誕生日の朝に行われる夜明けの儀式のみなのである。
この村だけでなくこの国で珍重されている“昇り鳥”に跨がり、朝陽が昇る前のまだ暗い時刻にグレートホーンに登り、その先端で朝陽が昇るのを待つのである。
昇り鳥は普段は飛ぶことはない鳥で、特殊な脚や尾羽をしており足場が悪い所でも簡単に登っていってしまう鳥なのだ。翼が無い訳でも飛べない訳でもないが何故か滅多に飛ぶことはない。そして人が乗れる程に大きい鳥だ。
このグレートホーンは、根元の方だけなら村の住人でも登れないことはない。だが先端にいくに従って細くなる為に上の方に登るのは難しい。ましてや今居るホーンの先端は足場なんて殆んど無いに等しい。それでも昇り鳥は平気でこの先端まで登り、そしてずっと立っていられるのだ。
村では儀式用に昇り鳥を何羽も飼っている。個人でペットとして飼っている者がいたり、仕事で用いる為に飼っている者もいる。
珍しい鳥ではあるが馴染みのある鳥なのである。
“夜明けの儀式”とは、成人になった者がその誕生日の朝に“昇り鳥”に乗り“グレートホーン”の先端で湖の水平線から昇る朝陽を浴びる儀式なのである。
朝陽を浴びている間、湖岸に並んだ村の人達が大昔から伝わる儀式の歌を歌うのである。
因みに誕生日が曇りや雨などで朝陽を浴びることが出来ない場合は次の日に順延される。次の日が駄目ならそのまた次の日となる。僕の場合、今日は夜明け前の夜空に星が満天に輝いていて、雲は朝陽の方角とは違うところにあるだけのようで、儀式にとって素晴らしい朝になりそうだ。
星々を眺めて左右を見回す。
右手の湖岸に小さな灯りが見える。港の辺りだ。きっと夜明け前に漁に出る船だろう。大きな湖には魚介類も豊富なのだ。
この村は外からは“グレートホーンに護られる村”とも呼ばれる。
村は湖岸に在る。村の両側も背も山に囲まれていて村は大きな湖に面している。その湖岸の中央に“グレートホーン”は在るのだ。
グレートホーンはとても大きい。長さが100m以上あり湖岸から湖に向かって突き出しているのだ。高さはホーンの先端で50m近くある。そして根元の太さは20m以上あるのだ。
このグレートホーンで夜明けの儀式を行い、村の皆は成人に成っていく。
成人になった後もそのまま村で暮らす者も多い。
だが僕は村を出ることを小さな頃から望んでいた。外の世界を色々と見てみたいのだ。そして村とは違う場所で暮らしてみたいのだ。この大きな湖の向こうに在る大きな世界を見てみたいのだ。
昇り鳥の首を右手で撫でながら、僕は間もなく朝陽が昇るであろう遠くの水平線を見つめている。
僕の100m後方の50m下の湖岸には、僕の家族や親類や友人、そして村長や普段は会うこともない偉い人達が儀式用の衣装を身に着けて、昔から決められた通りの配置で並んでこちらを見上げている。偉い人達の中には儀式用の楽器を持っている人もいる。
僕も皆と同じく儀式用の衣装を着ている。
そしてグレートホーンの根元には儀式用の飾り付けがされている。
何とも仰々しい儀式だとも想うが、この村に伝わる村の成り立ちを考えるとこれも当然なのだと僕も納得している。
大昔、ここには村はなく誰も住んではいなかった。
そしてこの大きな湖も無かった。
大昔のこの場所は、山と谷が連なるのは今と変わらないが湖は無く大きな平原だけが広がっていた。
大きな平原には巨大な生物が住んでいた。その巨大な生物には巨大な角があった。
その巨大な生物は全長が300~350mもあったそうだ。そして肩から長さが100m以上もある角が生えていたそうだ。
ある時、ある部族が大きな平原を旅していた。
彼らは戦争で町を焼かれ生き残った者達だった。戦争から逃れる為に大きな平原へ辿り着いた。
そして巨大な生物と出逢った。
最初は襲われるのかと怯えた。しかし巨大な生物は襲いはしなかった。それどころか彼らが食べられる植物が生えているところまで案内したのだ。
巨大な生物は知能を持っていたのだ。
部族は巨大な生物と一緒に旅をすることになった。
大きな平原を何日も何日も歩いた。
そして大きな平原の縁まで辿り着いた。
そこは山と谷が連なる場所だった。山には食物となるものが豊富だった。そして谷には川が流れていた。
部族はここに定住することにした。
ある日、巨大な生物が部族を訪ねてきた。
巨大な生物はとても慌てていた。
そして自分の背後に集まるように部族に伝えた。
部族は全員を集め、巨大な生物の背後に隠れるようにした。
巨大な生物は4本の脚を畳み腰を下ろして大きな平原の方に向いていた。そして巨大な角を天に向けるようにして上空を仰ぎ見ていた。
部族の皆も上空を仰ぎ見た。
どれ位そうしていただろう。
仰ぎ見ていた上空の遥か彼方に小さな光が輝いた。
遠すぎてよく判らなかったが、それは何か金属の物が落ちてきているように光っている感じだった。
その遥か彼方の光を反射する何かは少しづつ落ちているようだった。
そして突然、遥か彼方の上空のあるところで四方八方に眩しい光を放った。
巨大な生物は腰を少しだけ浮かし、その空間に急いで入るように部族に伝えた。部族の全員が急いで空間に入ると、空間を保つようにしながら腰を下ろして密封した。
外では光に遅れて大きな音が山々に木霊しているようだった。
そしてその後、外では轟音が鳴り響いているようだった。
「あれはきっと爆弾だ」そう誰かが言った。
だとしたら、この轟音は凄まじい風が吹いているのだろうか。
でも、爆発はあんなに遠くの上空だったのに。
凄まじい風は何十秒も続き、その後少し止み、そしてまた凄まじい風が吹いたようだった。
そしてその後、何事も無かったかのように静かになった。
何も起きなかった。
巨大な生物は腰を上げなかった。それどころか全く動かなかった。
どれだけ待っただろう。
ほんの僅かに巨大な生物の腰が動き、真っ暗だった空間に外の光が眩しく入ってきた。
そこから一人づつ這いながら外へ出た。
先に外へ出た者達が呆然と立ち尽くしていた。
大きな平原の方を見ている者、巨大な生物を見ている者、皆が呆然と立ち尽くしていた。
そこに大きな平原は無かった。
見渡す限り植物は何も無いどころか、見渡す限り大地が抉り取られた光景がそこには有った。
そして抉り取られた大地の縁で巨大な生物は息絶えていた。
その頭部や肩は爆風に曝された為に骨が見えてしまっていた。
きっと死ぬ間際に最後の力を振り絞って腰を上げてくれたのだろう。
巨大な生物は部族の皆を護ってくれたのだ。
爆風から護る為に駆けつけてくれたのだ。
平原の縁の山々も爆風に曝されて木々がなぎ倒されていた。
部族の皆が住む為に建てた小屋なども飛ばされてしまっていた。
抉り取られた大地は大きな平原の端の方だった。
大きな平原は直径約300kmの歪な円形をしていた。その大きな平原の端の方の一部分を山々と接するように、大地が直径約90kmの円形に抉り取られた。
その後、抉り取られた大地には雨が永く永く降り続いた。
爆風が上空の気候を一時的に変えてしまったのだろう。
抉り取られた大地は直径約90kmの完全に近い円形の大きな湖になった。
そして湖岸にはグレートホーンが聳えていた。
身体はいつしか湖岸に埋まってしまった。頭部の天辺だけが少しだけ波から覗いているだけになった。
その姿はいつまでも部族の住む村を護ろうとしているかのようだった。
部族は新たな家々を建て村を造っていた。
部族は巨大な生物に感謝を示し、巨大な生物の行いを語り継いだ。
そして儀式を受け継いできた。
この村の“夜明けの儀式”は、“今を生き未来に繋げる”という想いを忘れないよう、成人になる者に生きる意味を深く感じさせる為に行われるようになった。
そしてこの村は、“愚かな戦争の驚異と命の尊さ”を語り継ぐ場所として、世界中で知らない者は無い程の歴史的遺産として永く保存されてきたのだ。
そしてこれからも永く保存されていくだろう。
僕は今日、この“グレートホーンに護られる村”を出る。
大昔から語り継がれるこの場所を出て、現在の世界はどうなっているのかを見るのだ。
世界が命の尊さをどう扱っているのかを僕はこの目で見たいのだ。
この村に生まれた者として“それをしなければならない”とどうしても想うのだ。それが小さな頃からのどうしようもない衝動なのだ。
ー子供の頃の想い出ー
「ねぇ父さん」
『どうした?』
「グレートホーンって、どうして登って朝陽を見るの?」僕は先日の親戚のお兄ちゃんの儀式のことを想いながら尋ねた。
『そうだなあ』
『前に話した大昔の村の話、覚えてるか?』
「うん、覚えてるよ、忘れられないよ」
『そうか』父さんはそう言いながら、湖の水平線を見ていた視線を僕に向けて、続けて言った。
『上に登って朝陽を見るのは、グレートホーンが大昔に見たものを見るためなんだ』
『グレートホーンが村の人達を護ってくれた時に見ていた光を同じ高さで見るためなんだよ』
『この大地とグレートホーンを抉った光の代わりに、朝陽を見て感じて、グレートホーンの想いを心に刻むためなんだ』
僕はそう話す父さんを見つめていた。
『でもな、恐がるだけではいけないんだ』
『成人になった日に見るのは爆弾の光ではなく朝陽だ』
『グレートホーンが村の人達に伝えてくれた想いを感じるんだよ、未来に繋がる光を見て感じるんだよ』
『お前も父さんと同じことを訊くんだな』父さんはそう言って懐かしそうに湖の水平線を見つめていた。
『昔、父さんも爺ちゃんに同じことを訊いたんだよ』
『そして爺ちゃんは同じことを教えてくれたんだ』
《この物語の背景(Context of this story)》
①巨大な生物“グレートホーン”が存在している理由(The reason for the existence of the giant creature “Great Horn”)
“グレートホーン”は大きな平原を有する多民族国家において当時の統治民族により遺伝子操作で兵器として生み出された巨大な生命体。
その国家の国民の細胞を使用して生み出された為、知能を有している。また、生殖器は無い。
グレートホーンの個体は一頭しか存在していない。
②戦争が起こった理由(The reason why the war happened)
この戦争はこの国家の内戦である。
この国家は複数の民族で成り立っており、当時の統治民族による度重なる横暴な行為に対して、他の民族達が異議を唱え続けていた。
ある時、統治民族の主導者が他の民族を抑圧する為に戦争を仕掛けた。
③大きな平原に殺戮爆弾が投下された理由(The reason for the annihilation bomb dropped on the great plain)
殲滅爆弾はグレートホーンを抹殺する為に投下された。
グレートホーンは当時の統治民族による新しい兵器を創造する計画の中で生み出された存在だった。
外観や機能は仕様通りのものとなり、知能についても仕様通りだった。しかしながら、その知能が戦うことを拒んだ。
それは兵器としては最大の欠点となった。
また、グレートホーンは違法な行為で生み出された存在であり、倫理的に許されない産物であった。
当時の統治民族にとって邪魔となったグレートホーンは、知能もあり巨体過ぎて密かに殺すこともままならなかった。
グレートホーンのその巨体を隠すのに丁度良い場所であり、今ではどの民族も誰も踏み入ることがなくなった大きな平原に放たれた。
こうしてグレートホーンは大きな平原で長年に渡り暮らすことになった。
内戦が勃発し、当時の統治民族はこの内戦の最中に秘密裏にグレートホーンを抹殺することを考えた。
そして大きな平原を丸ごと消滅させることが出来る殲滅爆弾を投下したのだった。
統治民族はグレートホーンが大きな平原の何処に生息しているかを大まかには把握しており、ある程度は狙った上で殲滅爆弾を投下したのだった。
④グレートホーンや湖岸の村の存在が世界中に明らかになった理由(The reason why Great Horn and Lakeside village were known all over the world)
誰も踏み入れなくなっていた大きな平原は、その一部分が“大きな湖”に成った後もそのことに暫くは誰も気が付かなかった。
それは内戦でどの民族も自分達を護るのに必死であったからでもある。
しかしながら、永く永く降り続いた雨によって出来上がった大きな湖のことは噂として徐々に知れ渡っていった。
大きな湖が出来たことにより、その地域の気候は今までとは異なるものとなり、雨量も多くなり、周りの山々には川が増え、多くの川の水が大きな湖に流れ込むことになり、大きな湖は未来までそのまま存続されていった。
そしていつしか“湖岸の村”のことも知られるようになった。
それは、その湖岸に聳えるグレートホーンの見事で異様な光景のお陰でもあった。
その後、あの日に起こったグレートホーン抹殺の出来事が湖岸の村の住民から伝えられることによって世界中に知られることになっていった。
この国の当時の統治民族は世界中から非難を浴びた。
そしてその民族は統治する側から失脚し統治される側になっていった。
グレートホーンと湖岸の村は歴史的遺産として国から護られることになり、世界中から認知されるようになった。
⑤殲滅爆弾とは(What is an annihilation bomb)
爆弾の周囲の時空間そのものを膨張させ、そして消滅させる爆弾。
時空間を膨張させるときには凄まじい爆風が周囲を襲い、時空間を消滅させるときには逆方向の爆風が周囲を襲う。
そしてその爆風で飛ばされたものを一緒に消滅させる。
その影響力は非常に広範囲に及ぶ。