acrylic,
canvas 33×53×2cm(M10)
2017年
売却済 Sold
このアートワークに関連した構造説明図
Structural drawing related to this artwork
※リンク(Link)
→銀河星団の戦艦(Battleships of The Galaxy Star Clusters)
《物語(Story)》
【漆黒の巨星(Jet black star)】
「おい、どうした?何固まってるんだぁ」
身動きしない私に気づいたワニ型宇宙種族が、右の方から視界の隅で話し掛ける。
前方を見据えた私の眼の前には、目を見開いて私を不思議そうに眺める猫型宇宙種族が、自分の座席から立ち上がり会議テーブルに手を伸ばしている。
そうだ。確か、何かを言おうとした私は、猫型宇宙種族に何かを聞かれた私は、確か、立ちながら振り返った。
そして、この異常な感覚に見舞われたのだ。
猫型が何かをした訳ではない。ワニ型が何かをした訳でもない。
この宇宙船の外から突然襲われた。
私の後ろで、最大広角で捉えた筈のモニターに一杯に映し出された、巨大な漆黒の星から、私は捕り憑かれたのだ。
私達は1時間前に巨大な星に到着した。見知らぬ星が突然に無人探査船に発見されたとの情報が私の母星に持たらされ、別の仕事でその近くの宙域に居た私達にも、この星へ向かう様に命令があったのだ。
私達がこの宙域に到着した時、既に2隻の船が到着していた。私達は、見知らぬ巨星まで通常航行であるダークマター推進を使って向かう様に命令された。どうやらこの2隻の船は遠くからのワープ航法でアウトポイントを巨星の直ぐ傍に設定したに違いない。こいつらは命令に背いたのか。驚きだ。
2隻に対し通信をしてみたが応答がない。母星が仕切る連合の中型戦艦である筈だが、識別信号を出していないことに気づく。もう一度呼び掛けるが、やはり応答がない。
その時、3隻の船が新たにダークマター推進で到着した。即座にその一隻から通信が入った。
「ハンター君達、速いな」
口調からは馬鹿にした様子はない。珍しいことだ。
「申し訳ないな、星の詳細探査など関係無いと想われるだろうが、命令だ。仕方がないな。」
労われるなんて、初めてのことだ。
「だが、何かある様だ、君達が呼ばれた理由が」
「君は既に感じているのだろう」
ああ、感じている。この巨星に近づきだした頃から感じている。
『はい、感じています』
「だから呼ばれたのだよ、君が」
『私だけなのでしょうか』
「その様だ、母星の判断は正しかったな」
『闇の中の光』
「そうだ、この巨星は闇のエネルギーの中に光のエネルギーを宿している」
「そして、これは星ではなく生命体だ」
『やはり、そうなのですね』
「母星はこの生命体が君だけに反応すると察して、君の船をここに呼んだのだ」
「また厄介事が始まりそうだな、こりゃ」
ワニ型が舌打ちをしながら小声で文句を言う。
私は彼をちらりと見ながら、探査船の船長に質問した。
『あの2隻の船は何でしょうか。私達が到着した時、既にあそこに居ました』
少し間が空き、船長は答えた。
「彼らは星団だ」
猫型の口があんぐりと空き、ワニ型は小さく口笛を鳴らす。私は目を僅かにすぼめ、モニターに黒く輝く巨星の手前に拡大された星団の船を凝視した。
私は七歳の星の種族。探査船の船長も同じ七歳の星の種族だ。七歳の星は銀河を支配しており、七歳の星と従う宇宙種族とで宇宙連合を組織している。銀河の大半の星が連合の参加星だ。
私の船のクルーである猫型宇宙種族とワニ型宇宙種族の母星も連合の星である。そして、この操縦室には今は居ないが二人のヒューマノイドの男女のクルーの母星も連合の星である。
私達、宇宙連合に刃向かう星が僅かだが存在する。その星々は手を結んで銀河星団と名乗り、連合の支配を拒んでいる。宇宙は永い間、連合と星団との戦争状態である。
その星団の船が連合が見つけた筈の巨星、いや生命体に、先に到着していた。何故だ。
『何故、彼らは先に』
「それは、彼らも君と同じ様に感じるからだろう」
「君ほど強くは感じてはいないだろうが」
そうか、そういうことか。
銀河星団の星々が七歳の星に逆らっているのは、その傲慢だけの支配が許せないからだ。彼ら星団の星々の種族は、七歳の星の種族で唯一である闇の中に光を持つ私と同じく、種族として闇の中に光を持つ宇宙種族なのである。
『であれば、彼らは母星より先に巨星を発見していたのですね。そして先に到着した』
「そういうことだ」
『母星は巨星の発見と同時にそれを知り、私を呼んだということなのですね』
「そうだ、彼らより超能力が強い君を呼んだということだ。陰陽の心を持つ人間としては、宇宙で最も超能力が強い君をな」
『母星は私にどうしろと言っているのでしょうか』
「君には、この生命体に対し、連合に従う様に説得して欲しい」
「星団も同じことを試みているだろう。だが、君の方が強い」
『やりますが、こちらの意図に反した場合は』
「その場合は、滅ぼす。」
「その為に、母星から今、大型戦艦8隻と超大型戦艦2隻がこちらへ向かっている」
『推測ですが、星団の援軍もこちらへ向かっているのでは』
「それも考慮しての戦艦だ」
『解りました』
「では早速、思念交流を開始してくれ」
『はい、開始します』
猫型もワニ型も無言で私を見つめている。機関室のヒューマノイド二人の、私に向けられた心配そうな思念も伝わってくる。
私はモニター一杯に映る巨星の様な漆黒の生命体に思念を向ける。丁度その時、猫型が「立体映像モニターに出そうか?」と私に言う。
私は操縦室の中央の会議テーブル兼立体映像モニターに振り返りながら、起動パネルに手を伸ばす猫型を見る。
とその時、私の身体は、その表面に張った磁場の総てが凍った様に固まった様になり、私の脳は、誰かの両手で覆われたかの様に思念を出すのを封じ込まれた。
…これは…これは捕り憑かれたのか、悪魔種族の私が他の者に捕り憑かれたのか。だとすれば、捕り憑いたのは…まさか…巨星…
「おい、どうした?何固まってるんだぁ」
身動きしない私に気づいたワニ型宇宙種族が、右の方から視界の隅で話し掛ける。
猫型宇宙種族は、起動パネルに手を伸ばしながら目を見開いて私を不思議そうに眺めている。
操縦室の景色に重なる様に、何かが視界に勝手に映される。それは中央の黒く輝く光の点から始まり、漆黒の光は大きくなり、その周りは対照的な純白の闇が覆っている。それはまるで誰かの瞳を間近で覗いている様だ。
漆黒の光の中に時々瞬く様に光の粒が舞っている。そして、緑の帯の様な光が棚引き、漆黒の光の中で廻る様に舞い始めた。
「巨星が緑に光ってるぞ」とワニ型の声。どうやらモニターの巨星にも緑の光が舞っているのだ。
急に頭に直接声が響いた。
《君は誰だ》
《君は、先程から話し掛けてくる者達より、とても強いエネルギーを持っている》
《君は、陰陽の心を持っているのを感じる》
《なのに君は、悪魔種族に匹敵するエネルギーを持っている》
《そして君の外観は悪魔種族》
《在り得ない、そんなことは在り得ない》
私は思念を向ける。
『貴方は誰なのですか』
『何故、突然、捕り憑くのですか』
《私は創造主》
《この宇宙、この次元の創造主》
私は聞き直す。
『創造主?』
《そうだ》
私は戸惑いながらも聞き返す。
『貴方はここに突然顕れここで何をしているんです』
《私は、この宇宙を闇に沈めてしまった悪魔種族を 永遠の戦争に楽しんでしまっている悪魔種族をもう赦せない》
《私は、この宇宙を解放したいのだ》
『その為にここに居るのですか』
《その為に、それが出来る者を捜している》
《その者の為に、その者を助ける者達を捜している》
『宇宙を解放する者?』
《その者が、その者達が、この時、この場所で、私と会することが決まっていた》
《今、ここで》
『今、ここで?』
《その者とは、君》
《その者達とは、彼ら銀河星団》
『私?』
《私には、君が悪魔種族とは知らなかった、いや、知らされなかった》
《宇宙を解放する陰陽の心を持つ存在が悪魔とは》
《定めとは、驚きと素晴らしさと伴に在り》
《光とは、闇とは、時を超え、次元を超え、絡み合う定めに縛られ、陰陽は融合し、そして総てが解放される》
私は、悪魔種族に唯一生まれた陰陽の心を持つ存在。
私は、悪魔でありながら光を求める唯一の存在。
故郷の誰にも理解されず、他の星からは奇異な目で視られる孤独な存在。
でも、何かを想い出しそうな、何かを知っている様な、この感覚。
この漆黒の巨星が、この宇宙の創造主と自らを言うこの生命体が、何か懐かしく感じるこの感覚。
『私は、誰なのですか』
私は、思わず聞いた。
《君は総ての次元の解放者、君は救世主なのだ》
「おい、聞こえてないのか、おい」
ワニ型が必死に私を呼んでいる。
視界に操縦室が戻ってくる。漆黒の巨星と重なって、操縦室が見える。
『どうしたんだ』私は声に出して聞く。
「おお、戻ってきたか」
「七歳の星の戦艦が到着したんだよ、それと星団の援軍も来たんだよ、双方とも睨み合ってて、いつ戦いが始まってもおかしくねぇ」
「それに、七歳の星は巨星も滅ぼすつもりだ」
『そんな』
私は創造主に叫ぶ。
『彼らを戦わせたくない』
創造主は言う。
《彼らに、星団に伝える、彼らと話すのだ、君の未来の仲間だ》
創造主との思念の繋がりの中に、星団の思念が混ざって伝わってくる。
〈君のことは聞いている、何とかここを凌ごう、どうする〉
私は私の考えを星団に伝えた。
暫く間があり、星団は同意した。
創造主も頷いた。
私は、探査船の船長に叫びながら伝えた。
『至急、後方へ退去してください、早く』
『巨星を怒らせた星団が呑み込まれます、巨星に呑み込まれます』
『巻き込まれない様に早く退去を』
探査船、戦艦の総てが退去する。
船のモニターには、巨星が2隻の星団の船を呑み込んでいくのが映される。そして、星団の援軍も総てが引き寄せられる様に巨星に呑み込まれていく。
巨星は緑の光が増す。
漆黒に輝く巨星は、自らの中心に向かって、呑み込まれていく。
そして、創造主は跡形もなく消えた。
私達は、探査船、戦艦と伴に母星へ帰還した。
ワープ中の船内で、私は想い出していた。
消える直前に創造主が言ったことを。
《真実の星を探せ、彼女らを捜せ》
母星で、私は思念交流の内容を偽って報告した。
大まかには、こうだ。
『あの生命体は光を望んでいました。生命体は星団と思念交流している途中で、思念を向けた私を即座に見つけ、そして私を捕まえました』
『それを隙と考えた星団が生命体に刃向かおうとしたのです。そして彼らは呑み込まれました』
『それを察知した私は、巻き込まれない様に、咄嗟に連合の退去を申請しました』
『あの生命体についての詳細は聞き出せませんでした』
私の心に、光を求める心に、真実を求める心に、刻まれた言葉。
何故か、何か懐かしさを感じる言葉。
時を超え、次元を超え、響く想い。
《真実の星を探せ、彼女らを捜せ》