mechanical pencil(シャープペンシル),
acrylic,
illustration board 18×26×0.2cm(B5)
2021年
《関連するアートワーク(Related artwork)》
【とてもとても大きな夕陽の惑星でー赤色巨星ー(On a very, very big sunset planetーA red giantー)】
※リンク(Link)
→とてもとても大きな夕陽の惑星でー赤色巨星ー(On a very, very big sunset planetーA red giantー)
《物語(Story)》
【とてもとても大きな夕陽の惑星でー赤色巨星ー(On a very, very big sunset planetーA red giantー)】
「…………」
「・・・」
「――――」
誰も何も言わずに、眼を見開いて、口を開けて、同じ方向を見つめる。
ああ、想像以上の、そして宣伝以上の余りにもでっかい夕陽。
この惑星の総てを染め上げる、とてもとても巨大な夕陽。
私達はフローティングボートに乗って海へ出て、圧倒的な大きさの橙色、赤色、黄色に彩られた円盤に見とれる。本来なら強烈な光で海さえも干上がらせてしまう筈の巨大な円盤。色彩や鮮やかさは本来のままでありながら何故か穏やかに惑星を包む幻想的な夕陽。
私達の前の方には他のフローティングボートが幾つか浮かんでいる。フローティングボートの搭乗面は、中央のシリンダーが閉まると緩やかに凹状に沿った突出物が何もない面になる。中央シリンダーには、乗降時の照明や、緊急時の避難所の入口や、ドリンクや軽食などが提供されるハッチがある。ハッチ表面も仄かに光る照明になっている。避難時はシリンダーが高く突出して入口の高さが増しシリンダーがシェルターとなる。避難所の入口内部の両脇には排出が必要な宇宙種族の為にトイレが設置されている。
シリンダー閉時に何もない面だとボートの縁から落ちてしまわないかと心配になるが、大丈夫、菱形の縁の全周には目に見えないフィールドで形成されたエネルギー柵が設置されている。この夕陽の眺めを邪魔しない為に目では見えなくなっている。
また更に前方には、この惑星に別荘を持っているのだろうか、誰かのフローティングアイランドが夕陽を受けて輝いている。こんなところに別荘なんて羨ましいかぎりだ。
この惑星は、公転している太陽が赤色巨星になった時に、観光地化された惑星。この惑星は元々、核(地表)が存在する巨大ガス惑星だった。
太陽の赤色巨星化に伴い、総ての惑星は太陽の質量減少と太陽風の増大によって軌道が外へと移動したが、この惑星より軌道が内側に存在した惑星達の内の2つは太陽に飲み込まれた。この惑星は今はまだ飲み込まれていないが、惑星本体を取り巻いていた厚いガス層の殆どは公転バランスの変化で太陽の重力に吸い取られた。
そしてその後、観光客が滞在出来るようにフォーミングされた。赤色巨星を眺める為の観光星に造り変えられたのだ。
赤色巨星は光度が高くなり放射エネルギーが大きくなる。更には惑星に近づいている。その為、本来ならこの惑星の水は液体では存在出来ないし、生命体も殆どが存在出来ない。そこで開発業社は、惑星の全天を包み込む様にエネルギー制御殻を設定した。それは赤色巨星の放射エネルギーを選別し、エネルギーを穏やかにして惑星に透過させる透明な殻だった。
そこまでしてこの巨大な夕陽を眺める観光地を造りたかったのだ。
現在は、この夕陽を最大の目玉としている大人気の観光惑星になっている。勿論、朝陽が昇る光景も格別に凄い。でもやっぱり、この夕陽の方が素晴らしいと私は想う。圧倒的に、鮮やかに、色を深く濃く変えながら沈んでいく様は、表現し難い素晴らしい光景である。
この惑星に向かう為のツアー船の航路は通常の他の惑星への航路とは多少異なる。それは、宇宙船が太陽系に侵入する前から、赤色巨星が惑星の背後に隠れる様に設定されているのである。宇宙船が赤色巨星からの放射エネルギーをまともに浴びるのを避ける様にしてあるのだ。それに気付いたときは、成る程なぁと頷いたものだ。真空の宇宙空間自体は冷たいままであるが、放射エネルギーを浴びた物質はこの距離では1000℃近い高温になってしまうのだ。
そういえば、後から知ったのだが、特別仕様の宇宙船もあるらしく、その宇宙船は船体がエネルギー制御殻に覆われているという噂である。惑星に到着するまでの間、宇宙空間に浮かぶ赤色巨星の姿を眺めることが出来るというグレードアップされたツアーなのだそうだ。惑星に近づくに連れてどんどん大きくなっていく赤色巨星もまた見応えのあるものなのだろう。