mechanical pencil(シャープペンシル),
illustration board 30×42×0.2cm(A3)
2020年
《物語(Story)》
【土竜橋(The Mole Bridge)】
或る惑星の大草原。
一人の地球人がその大草原を歩いている。彼女とずっと一緒のネコ型宇宙人ノワールを連れて。
二人は草原の細い道を歩いている。
二人の後をそれぞれのフローティングキャリアが付いていく。
地球人はこれ以上は乗らない位の食べ物やお菓子や飲み物を乗せ、ネコ型宇宙人はいざという時の為のクリスタルガンをガン専用キャリアに乗せている。
延々と一面同じ薄緑色だった風景が、ずっと先の方で横一線に区切りがある様に見えることに気付いた。
「何かありそうだわ」
もう歩き疲れたという様子のノワールは返事も無い。
「何あれ」
二人は歩き続け、横に拡がる区切りを目指す。
暫くすると、その拡がりはどんどん上下に太いものになっていき、横に延々と続いていることが解ってきた。
更に歩き続け、そして二人は気が付いた。
『ドウシマショウ』
「うわぁー」
それは、大きな崖だった。
大きな大きな崖。
切り立った崖の淵から恐る恐る下を見ている地球人とノワール。
向こう側にも並行して崖がそびえ立っている。50mくらい間があろうか。
崖の下の方はどこまでも続いている様に霞んでいる。どれだけ高さがあるのか判らない程だ。
どうしよう・・戻るしかないのかな・・・。
そう思いかけたとき、微かに変な音が聞こえることに気付いた。
「なんの音?」
何やら、しゅるしゅるという音が聞こえる。振り返った草原を見渡しても何も無い様だ。
崖の方に眼を戻し、音の元を探す。
どうやらその音は崖の方から聞こえてくる。眼を凝らして崖を覗き込むが何も見当たらない。
「おかしいわね」
もう一度、草原を眺めてみる。やはり何も無い。
”お待たせしました”
突然、聞きなれない声が響いた。
「ノワールじゃないよね」
ノワール以外の声にビックリし思わず訪ねる。
『ハイ、ノワールデハナイデス』
後ろの崖の方から聞こえた気がする。
”わたしです”
そう答える声と共に崖から何かが現れた。
太陽の光を遮るものがない、だだっ広い草原に、懐かしささえ覚える日陰と共に、突然に何かが崖から飛び出す様に現れた。
とても大きな蛇の様なもの。というか、外骨格に被われたミミズというか、何だかとても大きな長いもの。
それはどんどん上昇していく。
そして見上げたその先端は、二人に被さる様に二人を見下ろしている。
そう、見下ろしている。
顔?
「あなた何?」
人の顔の様なものが二人を見ている。そう、目が4つもあり二人を同時に見ている。
更に見上げると、頭が尖っている。そしてその輪郭はギザギザ。
大きな顔と、顔と同じくらい太くて長い首、まるで崖から生えているみたい。
その顔が二人に迫ってくる様に喋る。
”わたくし橋です”
唖然として見上げる地球人と、尻餅をついた状態で見上げるノワール。
”向こう岸へお渡しするのがわたしの役目です”
と言いながら顔が50m程先の崖を振り向いた。首がねじられている。
”乗りますか?”
恐る恐る聞き返す。
「……向こうへ渡してくれるの?」
”はい、そうです”
地球人とノワールは下向きになった顔の後頭部に乗った。
乗った部分は平らになっている。もうあと一人は乗れそうな広さだ。
平らな部分を囲む様に4本の角みたいなものが立った。
”それに摑まって下さい”
向こうの崖に向かい動き出した。
『クビガノビテイマス』
ノワールの言葉に地球人が後ろを振り向く。
崖に空いた穴から首が伸びている。
というより、穴からどんどん出て来ている。
首の上面には道の様なものがある。
別れ際に聞いた話では、大人数を渡すときは首の上を渡ってもらうのだそうだ。
『スゴイガケデスネ』
「本当、どこまでも続いているみたい」
左右共、あまりにも遠くまで崖が続いており、霞んでいる。
思わず見とれてしまう。
”到着しました”
反対の崖の淵に尖った頭部を載せて、橋が告げた。
崖で途切れていた道が、ちゃんとこちら側に続いている。
二人は橋の頭部を渡って地面に降りた。
”またご利用ください”
「ありがとう」
『アリガトウゴザイマシタ』
二人を降ろすと橋は、すうっと元の崖へ引き込まれる様に戻っていった。
「ビックリしたわね、あんなのが居るんだ」
『エエ、ホントウニビックリシマシタ』
「この星、面白いわね」
『デモ、ナンダカ、セイタイケイガコワイデス』
「そうね、驚いちゃうわ」
「それにしても、この草原どこまで続くんだろう」
『ホントウデスネ、ミワタスカギリ、ドノホウガクモミドリデス』