acrylic,
canvas 33×53×2cm(M10)
2016年
この物語は、“始まり(Beginning)”と同様、私達、非ヒューマノイドハンターが出逢った生命体を記した物語🖋️
※リンク(Link)
→始まり(Beginning)
《物語(Story)》
【幻の船(Phantom Ship)】
「何か聴こえない?」
仲間の一人が突然叫ぶ。
他の仲間が追って静かに言う。
「あぁ、聴こえる」
『えっ、何が聴こえるんだ?』
長い口の中で牙を覗かせながら彼は聞き返す。彼はあまり聴覚が発達していない。
私にも聴こえる。
彼らが聴こえるずっと前から、聴こえている。
私にはこの鳴き声とおぼしき声に混じって、言葉の断片が聴こえる。
私達、非ヒューマノイドハンターは得たいの知れないものを追い求め、この宙域にいる。ここは銀河の中心に近いが、太陽ごと破壊された星系の残骸が漂う場所。いつからか、滅ぼされた種族の魂がさ迷っていると噂され、誰も寄り付くことはなくなってしまった。
今、この広い宙域に私達の船だけが存在している。
鳴き声は、この宙域の手前にワープアウトし、丸一日掛けて、元々は或る種族が住んでいた惑星の公転区域に入った先程から皆に聴こえ始めた。
私にはワープアウトした直後から聴こえていた。
ここに在った筈の惑星の種族は総てが抹殺されたと言われている。
そんな場所で、何かが居るという噂が聞かれるようになった。何かとてつもなく大きなものが居ると。
その噂が最近、銀河の中心で持ちきりとなった。
そこで私達に何が居るのか探れという指示が下った。
噂は誰が流したかは判らない。肝試し好きの何処かの若者がここに入ったんだろうと、噂には付け加えられて広まっている。
その、とてつもなく大きいものは、80kmあるという噂なのだ。80000mの生命体だと。
ここに来るまで私達は噂を信じていなかった。そんな大きな生物は聞いたことがなかったからだ。
だが今、何か鳴き声が聴こえる。そして、何か言葉が聴こえる。
まだ姿は見えないし、船の策敵設備も反応はない為、大きさは判らない。だか、何かとてつもなく大きな何かという気配があるのだ。
鳴き声は時折、聴こえていた。3時間程が過ぎた時、私に対し、突然に理解が出来る言葉が浴びせられた。他の仲間には怒号の様な鳴き声として聴こえた。
謎の生命体は私にこう怒鳴った。
《私の場所に入るな‼》
通常、宇宙空間で音は伝わらない。よって聴こえない筈。私に対しては思念で言葉が投げ掛けられている為、聴こえるが、仲間には鳴き声も聴こえない筈。
だが聴こえている。船の策敵設備も鳴き声を感知した。
どうやら、この、とてつもなく大きな生命体は、鳴き声を真空の宇宙空間に伝え、星の残骸で共鳴させ、私達まで届けている。空間に満ちているダークマターを使って伝えているのだ。
私もエネルギーを出し入れする超能力はダークマターを使う。今は宇宙船も殆どがダークマターの引力及び斥力エネルギーを推進力として利用している。
そうなのだ、この生物は超能力を使っているのだ。
私の種族、この宇宙の支配種族と同じレベルの力を。
私達はここまで、半分ピクニック気分で進んできた。
だが今は突然、状況が変わった。
殺られるかもしれないと悟ったのだ。
本当に80kmもあり、私と同レベルの力を持つなら、その思念攻撃は私達を一瞬にして消し去ることが出来るだろう。
私は焦りながらも、冷静に状況を把握しようとした。
今、突然に怒鳴られた。今までは微かな何処の言葉とも取れない声だった。
私は気付いた。
或る範囲内でだけ身体に見合った力が出せるが、範囲を外れると急速に力が衰えるのではないか。
そして、それは“彼ら”が、一人一人は弱い超能力だが、集まることでそれをまとめてこちらに思念として送っているからだと。
私は誰かに聴いた話を想い出したのだ。
ここに居た種族は、滅ぼされる時に何かを建造していたと。とてつもなく大きな船の様な何かを。
滅ぼした部隊がそれを見つけたが、その船の様なもの諸とも滅ぼしたのだと。
そして、私は彼らに話し掛けた。
〈私達は何もしない〉と思念を送った。
そして、〈“貴方達”のことを私は理解している〉と付け加えた。
暫く、雑音が私の頭に鳴り響いた。無数の個々の思念が会話をしている様な雑音。
そして、言葉が返って来た。
《我々をそっとしておいてはくれないか》
《我々は滅ぼされる時、間際になって建造した、この生体船に種族の魂を封じ込めた》
《そして、この宇宙の支配種族である悪魔達に気付かれない様、誰も来ないこの宙域でひっそりとさ迷うことにしたのだ》
《君が悪魔種族だということも思念を通じて判っている》
《だが君は、何かが違う。君からは悪魔には無い筈の暖かい心が伝わってくる》
《だから我々は話し合いの結果、君にお願いをするという賭けをすることにした》
《どうか、我々をこの船をそっとしておいて欲しい》
私は涙を浮かべながら、この会話を仲間に伝えた。
仲間も私と同じ想いを持った。
そして私は彼らに告げた。
〈貴方達の望むようにします〉
〈この宙域は立入禁止になるように働きかけます〉
彼らは感謝の意を私の頭の中に伝えながら、私達の前から去っていった。去る時に、彼らの船の姿が光輝き浮かび上がった。
それは船というより、本当にとてつもなく大きな魂の輝きであった。
とても穏やかな魂の輝きであった。
私達は私の母星に帰り、あの宙域には何も無かったと報告した。船の策敵設備のデータ書き換えは機器への侵入が得意な猫型種族の仲間に任せた。彼は帰りの時間の総てをそれに注ぎ込んでいた。
噂の原因は、滅ぼされた種族の残留思念だったと報告した。実際に滅ぼした後は思念が残るのだ。特に超能力が強い種族はそうなのだ。
彼らは実際、それに近い者達だ。私達はまんざら嘘をついている訳ではない。
そして私は、あの宙域の立入禁止申請を出し、私の思念サインを申請の最後に封じ込め、仲間が待つ船へとMoving roadの上を更に走った。