
acrylic,
canvas 33×24×0.3cm(F4)
2025年
《物語(Story)》
『パトロールの為、通常ゲートから発艦する』
私はクローン兵器のパイロットスフィアの中で、そう思念で唱えて乗組員や部隊に発艦を伝えた。
『了解』
航宙母艦(※1)の管制から返事が思念で返ってきた。
私はパイロットスフィアの中で浮いた状態で、右脇にガンを抱えた形で中腰になり両足を踏ん張る体勢で、前方の四角く切り取られた星空を見ながら加速度が加えられるのを待つ。
ガンはパイロットスフィアの中には存在しないが、抱えている感覚は伝わっている。
数秒後、後方から身体全体が満遍なく押されるように加速され、四角い星空があっという間に大きくなり、私は右側発艦ゲートを抜けた。いつもの様にダークマター斥力カタパルトの加速が心地よい。
ゲートに通常と付けるのは、もう一つの特別発艦ゲートがあるからだ。この特別ゲートは客船機関室のメインダークマター推進球の強大な斥力を利用して更なる急加速を得る為のものである。
私達の小隊はこの航宙母艦に常駐している。そしてこの航宙母艦はあの豪華銀河客船の1ユニットとして組み込まれている。私達は豪華銀河客船の専属自衛部隊なのである。
この時間は豪華銀河客船の定期パトロールだ。今日一日のパトロールは私の当番なのだ。
私は定期パトロールにダークマター推進ロングガン(※2)を携えるのが好みだ。この装備はダークマター推進球がガン自体の後端に設定されていて、その強力な斥力で徹甲弾を射出できる。私はエネルギー弾より固体の弾が好みなのだ。
このロングガンの特徴はそれだけではない。射出された徹甲弾の弾道をダークマター推進球の引力と斥力によって曲げることが出来るのだ。それをパイロットの思念によって行うことが出来る。
このロングガンに狙われた相手からすれば、思わぬ方向から攻撃を受けることになるのだ。
発艦ゲートを抜け、航宙母艦の船首下面と機関室メインダークマター推進球の推進エネルギーとの間を船首先端へ向かって移動する。至る所が光り輝いている豪華銀河客船の中で、この航宙母艦の下面だけが光が少ない珍しい場所だ。
船首先端に近づくに従い前方から光が増してくる。そして船首先端に差し掛かると頭上からも一気に光が溢れる。
その直後、 カタパルトで得られた速度のまま、私は少し左に身体を捻って上を見上げた。パイロットスフィア内での私の動きを私のクローン兵器はそのままトレースする。
見上げた私の上には大天使の巨大な足の裏が鎮座している。その向こうにはビーチスフィアとプールスフィアが並んでいる。パイロットスフィア内で見る私の視界はクローン兵器が見る視界である。
その足は神々しく白く輝いていた。私は発艦するといつもこの行動をしてしまう。
私は発艦速度で流されながら、少しずつ遠ざかっていく大天使の輝く足を暫く眺める。
今クルーズは私がこの自衛部隊に配属されてから初のクルーズであり、豪華銀河客船を護っているということに私はまだ馴染めないのだ。今まで崇めるだけだった大天使がいつも自分達の航宙母艦の上で寝ているなんて未だに信じられない。
私は大天使の足を崇めながら、航宙母艦の前方でもある客船の後方に向き直り、客船周囲のパトロールに向かう為に前方移動の思念をクローン兵器に送る。
クローン兵器はその思念を受けて脹ら脛に設置されているクローン兵器用補助ダークマター推進球(※3)に思念を送る。その思念を受けたダークマター推進球はクローン兵器を前方に移動させる。
こう表すと幾つものプロセスがあるのだが、実際は一瞬であり、私の思念で反射的に移動できる。
暫く前方へ進み、客船の後方をクローン兵器の肉眼の視界とサードアイの量子視界で確認する。その感覚が自身の肉眼の視界とサードアイの量子視界として同時に連動する。
右方向に向きを変えながら進み、クローン兵器の頭上に相対空間ロックされた“広域量子レーダー”(※4)へ作動の指示を出す。
広域量子レーダーは直ぐに私のサードアイに広域空間の量子分布図を映し出す。
広域量子レーダーとは、空間に織り込まれて充満している量子であるダークマターの分布を広域的に捉えることが出来るレーダーである。
物質は、量子エネルギーが形を変えて実世界に表面化している状態であり、量子密度が高い。
ビーム兵器等の高エネルギー粒子の流れは、 量子エネルギーが高エネルギー粒子として実世界に表面化している状態であり、物質ほどではないが量子密度が高い。
レーザー等の光子の流れは、高エネルギー粒子に次いで量子密度が高い。
広域量子レーダーは広域空間におけるそれらの量子密度の分布をサードアイに増幅した形で見せてくれるのだ。
私は肉眼の視界とサードアイに見せられる広域量子レーダーの量子密度分布図とを重ね合わせて索敵を行いながら、右回りに豪華銀河客船のパトロールを進めた。
因みに、客船の前後左右(大天使の頭頂、足先、大腿部横)に設置されている4つのダークマター斥力発生リングはその斥力エネルギーを通常は客船の全周3000m範囲の外から発生するように設定されている。
パトロールは斥力エネルギーが発生していない範囲内で行っている。
この豪華銀河客船は設置された施設の殆どが光輝いている。軍の艦船や他の民間の艦船等とは違って兎に角目立つのだ。
この客船が宇宙の支配種族である私達七歳の星の所有であることは宇宙全体に知れ渡っている。その為、海賊行為や攻撃をされるということは先ず無いのだが、時折ちょっとした遊びのつもりで接近してくる者達がいるのだ。
まあ、もし攻撃されたとしても問題はない。私達の小隊が配属されているこの航宙母艦には充分なクローン兵器と様々な武装が搭載されているし、そしてそれなりの精鋭部隊である。
因みに先程も少し触れたが、この私達の航宙母艦は通常は豪華銀河客船の1区画として、大天使の脹ら脛から爪先に掛けての部位に相対空間ロックされている。客船の構成パーツとして組み込まれているのである。
但し、必要時には客船から切り離すことで航宙母艦として単独での航行も可能となる。そして単独で戦闘体制に入ることも出来るのである。
パトロールはこの目立つ豪華銀河客船の周りを見回った後、少し離れて伴走するシェルシップの周りも見回るのだ。シェルシップは豪華銀河客船専用に建造されたものであり、客船を格納して星系間をワープ可能な宇宙船なのだ。そして修理設備や倉庫も充分に備えており、客船のドックも兼ねている。
そういえば、豪華銀河客船の船内ツアーの一つとして、“航宙母艦ツアー”なるものが近々設定されるとの通達があった。艦長からは「いつも通りの状態を乗客に見てもらえばよい。それが乗客の安心に繋がる。」との言葉があった。まさかそんなツアーが組まれるとは驚きであるが、私達がいつもこの客船を護っているということを知ってもらうことは良いことなのだろう。
豪華銀河客船の各区画に相対空間ロックされて囲まれている大天使の姿をその右側足元から2000m程離れた宇宙空間で、私はその神々しさに圧倒されながら眺める。
そして、私達は大天使をも護っているのだなと感慨深くなる。
大天使の右側の宇宙空間をその頭部の方へ移動しながら、私は肉眼の景色と重ねてサードアイの視界に映し出される広域量子レーダーの量子分布図に意識を戻し、定期パトロールを進めた。
総ての宇宙種族にとって崇める存在である大天使を豪華銀河客船として運用するなどということ自体が驚くべきことなのだが、宇宙全体に我々支配種族の影響力を誇示する為なのだということは私も理解している。
だが、この特殊な豪華銀河客船を建造するという発意自体が大天使から提案されたことらしいのだ。そういう噂が立っており、それは恐らく事実だろうと言われているのだ。
それがどういう意図なのかは私には解らない。母星である七歳の星にも解らないのではないだろうか。少なくとも私の小隊の隊員達は解っていない。
[大天使の想い]
宇宙の古参種族であり総ての宇宙種族から崇められる存在である大天使達は今や個体数が少なくなっている。彼らはその膨大な知識と経験を未来に繋げる為に、己の長寿命を永らえながら、個体それぞれに様々な形でその知識と経験を他の宇宙種族に伝える方法を模索し実行している。
その様な状況の中で、一つの若い宇宙種族が発生した途端にその傲慢さと高い科学力と我々大天使にも匹敵する超能力の強さとで瞬く間に宇宙を支配してしまった。
その若い種族とは、百ある宇宙種族の中で若い方から数えて七番目に若い種族である七歳の星の種族である。
宇宙は七歳の星の支配によってかつての希望に満ちた明るさは消え闇の次元と化してしまった。
大天使達は宇宙の状況に憤怒し未来に危機感を持っていた。
大天使の一部は自ら七歳の星と直接に接触を図り、その支配の動向を内部から把握しようとする試みを進めたのである。
その一つがこの豪華銀河客船に自ら成るという試みなのである。
彼女は深い眠りにつきながら、支配種族とそれに従う宇宙種族達の思念を常に受け取り、彼らの想いと動向を監視し続けているのである。
[豪華銀河客船専属 航宙母艦]※1
豪華銀河客船の1区画として、客船の最後尾部の大天使の脹ら脛から爪先にかけての部位に相対空間ロックされており、客船の構成パーツとして組み込まれている。
人員(客船の船員と母艦の隊員や乗組員)の通路、物資の運搬路の為の接続部が航宙母艦の船尾に3ヶ所設けられている。
必要時には客船から切り離すことで航宙母艦として単独での航行も可能となり、単独で戦闘体制に入ることも出来る。
船体の形状や構造は、客船の他の区画に合わせた特殊仕様になっており、船殻は金で覆われ、装飾も施されている。但し、機関室のダークマター推進球によるエネルギー流との干渉を避ける為、船体下面には装飾は施されていない。また、管制との思念交信の妨げを避ける為、発艦ゲート部の天井にあたる面にも装飾は施されていない。
そして船体の上面には、ダークマター相対ロック半球や、他の区画や大天使との情報交換を行う情報ユニット半球が組み込まれている。この情報ユニット半球は航宙母艦の艦橋も兼ねている。
また航宙母艦単体のエネルギー源となる大型クリスタルが船体上面に突き出す形で設置されている。これは、機関室の巨大クリスタルによる大天使へのエネルギー供給が困難な場合に、臨時に大天使にエネルギーを供給する為である。
宇宙連合軍の艦船であり、銀河を支配し宇宙連合を創設し管理している支配種族“七歳の星”の種族の一個小隊を持つ。小隊は七歳の星の種族自らの身体を40mに拡大投影したクローン兵器を有している。銀河の支配種族が客船の自衛部隊となっているのだ。
[全長]
・650m
[全幅]
・300m
[乗員]
・140名(一個小隊を含む)
[保有部隊]
・一個小隊:隊員20名
全員が銀河の支配種族“七歳の星”の種族
クローン兵器を20体保有
[艦橋]
・情報ユニット半球:1球
[発艦 着艦ゲート]
①通常発艦ゲート:2ゲート
・ダークマター斥力カタパルト:2機
・管制:2ヶ所
・急速着艦用ビームネット:2機
②特別発艦ゲート:1ゲート
※この特別発艦ゲートは豪華銀河客船の機関室のメインダークマター推進球の強大な斥力を利用して急加速を得る特別なカタパルトであり、メインダークマター推進球の推進エネルギー域の間際まで航宙母艦の下面から突き出した構造となっている。
[観測ユニット]
艦首中央に設置
・レーダー
・センサー
・発艦した兵器との通信
[武器]
・大型ビームキャノン:1門(艦首中央部)
・クリスタルキャノン:4門(艦首:2門、艦尾:2門)
・ビームキャノン:8門(艦後部下面:4門、艦後部上面:4門)
[保有クリスタル]
・エネルギー用大型クリスタル:1マインド
・キャノン用クリスタル:4マインド
[推進方法]
・ダークマター推進
・メイン推進球:2球
・サブ推進球:2球
[豪華銀河客船との接続方法]
・ダークマター相対ロック半球:2球
・人員通路、物資運搬路の接続部:3ヶ所
[ダークマター推進ロングガン] ※2
ダークマター推進球がガン自体の後端に設定されていて、その強力な斥力で徹甲弾を射出できる。
ダークマター推進球の斥力による加速は、銃口までのバレル内だけでなく、銃口から射出された後もパイロットの思念によって加えることが出来る。それによりエネルギー弾や他の装備の固体弾よりもかなり大きな威力を持つ。
またパイロットの思念によって、射出された後に弾の左右に引力と斥力を発生させることが出来る。そしてその引力と斥力の量により、弾道をある程度想いのままに湾曲させることが出来る。例えば、弾の左側に引力そして右側に斥力を発生させることにより、弾は左側に曲がっていく。結果、相手にとっては全く異なる方向に射出された弾によって横から撃たれるということが起こる。
また、ロングガンのダークマター推進球をクローン兵器の移動の推力として用いることも可能。
エネルギーを放つ装備ではなく、このロングガンを好むパイロットも少なくない。
[クローン兵器用補助ダークマター推進球] ※3
通常、クローン兵器は、操縦者である七歳の星の種族の超能力により、空間に織り込まれて充満している量子であるダークマターの引力と斥力を制御し、自らを拡大クローンしたクローン兵器とのシンクロにより超能力を増大して、宇宙空間を移動出来る。しかしながら、急速移動や長時間移動を考慮し補助ダークマター推進球を装備する場合がある。このパイロットも補助ダークマター推進球を装備することを好むのだろう。
[広域量子レーダー]※4
空間に織り込まれて充満している量子であるダークマターの分布を広域的に捉え、広域空間の量子分布図をパイロットのサードアイに映し出すレーダー。
物質は、量子エネルギーが形を変えて実世界に表面化している状態であり、量子密度が高い。
ビーム兵器等の高エネルギー粒子の流れは、 量子エネルギーが高エネルギー粒子として実世界に表面化している状態であり、物質ほどではないが量子密度が高い。
レーザー等の光子の流れは、高エネルギー粒子に次いで量子密度が高い。
広域量子レーダーは広域空間におけるそれらの量子密度の分布をパイロットのサードアイに増幅した形で見せることが出来る。
七歳の星の種族であるクローン兵器パイロットは、肉眼の視界とサードアイに見せられる広域量子レーダーの量子密度分布図とを重ね合わせて索敵を行う。
《このアートワークに関連したアートワーク(Artwork related to this artwork)》
※リンク(Link)
→豪華銀河客船ー大天使客船ー(The Luxury Galaxy Cruise ShipーThe Archangel Cruise Shipー)
《このアートワークに関連した構造説明図(Structural drawing related to this artwork)》
→豪華銀河客船専用シェルシップ(The Shell Ship dedicated to The Luxury Galaxy Cruise Ship)
《クローン兵器を描いたアートワーク(Artwork depicting The Clone weapons)》
→カテゴリー【クローン兵器】(Category【The Clone weapons】)