mechanical pencil(シャープペンシル),
acrylic,
illustration board 26×18×0.1cm(B5)
2023年
《物語(Story)》
《幽玄の世界(The Yugen World)》
【タウントレイン [第二話]:ラウンジの男(The Town Train [The second episode]:A Man in The Lounge)】
“今日はまだ空いているな”
そう想いながらいつもの椅子に向かう。
今日はいつもより少し早い時間にここへ来た。いつもより早く目が覚めたからだ。
奥のソファー席で二人の男女が紅茶を飲みながら話をしている。窓に近い席で男が一人コーヒーカップに手をかけている。客は私を含め四人だ。
ここは列車のラウンジカーというか、街の喫茶店である。接客が好きな女性がいつの頃からか自宅の一部を改装してサービスを始めたのだ。
この街にはお金のやり取りという思想はない。というか、この幽玄の世界にそういう思想はない。物資の総ては機関車の列車管理人に伝えれば手に入る。紅茶、コーヒーなどの飲み物も、カップや皿なども、改装の為の木材なども総て手に入る。
そしてこの幽玄の世界では食べ物は勿論、飲み物でさえも、摂取しなくても問題はない。ここでは生命体は次元の根源エネルギーを直接取り込むことで生命を維持している。
紅茶やコーヒーを飲むということ自体、かつての生活の慣習の延長にあるものであり、嗜好品ということなのだ。
皆、誰かと会う為や、話をする為や、一人で物思いに更ける為や、そういう場所を求めてここにやって来る。私にとっては毎日の日課というところだ。
店の入口のドアが開き男が入ってくる。見慣れぬ男だ。
見慣れぬといっても列車の住人であることには間違いない。彼は普段は余り見かけることのない人だ。自宅に閉じ籠っていることが多く、外に出ることも珍しい。今日は何か良いことがあったのかとても嬉しそうな顔をしている。彼のこんな表情は初めて目にする。
彼は入口付近の席に座った。
店主の女性が席に近づき男に話しかける。“久しぶり”と言っているようだ。男もにこやかに応える。彼の笑った顔も初めて見る。
暫く二人は会話をしていたが、店主が驚きの表情を見せた。彼女は目と口を大きく開いている。
その後、“それは良かった”というように安堵の表情に変わった。そして何か淋しさの表情も浮かんでいた。
男は終始、にこやかなそして穏やかな表情を浮かべて紅茶を飲んでいた。そしてにこやかに店主に手を振って店を後にした。
何日か後、男の姿はどこにも無かった。
元々、自宅の外で見かけることは少なかったが、自宅の中にも存在していないようだった。
彼は幽玄の世界から消えてしまったのだ。
ここは青い果てしない世界。
そしてこの街は青い果てしない平原を走る列車。
永遠に何かを求めて彷徨う人達が住む街。
彼は求めていた何かを見つけたのだ。
もう求める必要がなくなったのだ。
彼はこの幽玄の世界にいることが出来なくなったのだ。
求めるものは人それぞれである。
彼は何を見つけたのだろう。
私はいつか見つけることが出来るだろうか。
あんなに穏やかな表情を浮かべることが出来るだろうか。
私は青く仄かに輝くこの世界の遠くの景色を眺めながら、目を細めて目頭が熱くなるのを我慢する。
想い出せない優しさを手繰り寄せながら…
(…どうしようもなさを感じる…)
《幽玄の世界について(Regarding The Yugen World and )》
青く仄かに光る果てしない世界
果てしない青い平原を果てしなく走る列車
それはタウントレイン
果てのない幽玄レールを走る街
永遠に何かを求めて彷徨う人達が住む街
タウントレイン、それは幽玄の街
《タウントレインについて(Regarding The Town Train)》
機関車、住宅車、公民館車からなり、機関車に設置されている巨大クリスタルをエネルギー源とし、空気エンジンを動力源とする。レールはクリスタルの思念が造り出す。
住宅車には、一車両で一邸宅の大邸宅、二階建ての大きな間取りの住宅、二階建ての小さな間取りの住宅などがある。
《幽玄の世界の住人について(Regarding the inhabitants of The Yugen World)》
基本的に口から食物や水分を摂取しないでも生きられる。住人は空間に潜むエネルギー(次元の根源エネルギー)をそれぞれが直接取り込むことにより生命を維持している。
“幽玄の世界”を描くアートワーク(Artwork depicting “The Yugen World”)
【タウントレイン】シリーズ(【The Town Train】series)
※リンク(Link)
→《幽玄の世界(The Yugen World)》タウントレイン [第一話]:淋しげな瞳(The Town Train [The first episode]:Lonely Eyes)
“幽玄の世界”と関連するアートワーク(Artwork related to “The Yugen World”)
※リンク(Link)
→テイルコートとトップハットを装う狐紳士(A Fox Gentleman in a Tailcoat and Tophat)[地球のモノノ怪達 #3(The Mononoke on The Earth #3)]
→新しい駅に向けて(Hacia nuevas estaciones)